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人は何のために生きるのか

第3回「働く理由」は、金を稼ぐことだけではない

 『自分が変わるための15の成長戦略』の中で最も頻繁に登場する人物の一人に、経営の神様・ピーター・F・ドラッカーがいる。
彼は組織運営の方法を説いた名著『マネジメント』で有名であるが、「成長していくこと」に関して、われわれに貴重な示唆を与えてくれる。

ドラッカーは「経営の真髄は真摯さにある」と言っている。
この「真摯であること」をおざなりにすると、信用は地に堕ち、どんな大企業でも潰れてしまうリスクがある。
かつて、ジョンソン&ジョンソン社のタイレノール事件という有名な事件があった。
販売する薬の中に毒が混入、それが原因で7名が亡くなった。ジョンソン&ジョンソンは緊急に経営会議を開き、たった1回の会議で全製品の回収を決めた。そして、「この薬は飲むな」という広告を打った。
どれだけの費用がかかったか、損失が生じたか。だが、ジョンソン&ジョンソンが経営理念のトップに掲げた「人の命を守る」から考えれば、当然やらなければならないことだった。
その結果、どうなったか。そういう対応をしたジョンソン&ジョンソンの信用は絶大になり、次の飛躍につながったのだ。

■金よりも地位よりも重要な「高潔さ」

真摯でなければ生き残れない――それは組織だけではなく個人の身に置き換えても全く同じの、不変の真理である。
『自分が変わるための15の成長戦略』の9番目の戦略に、「人格を磨く」がある。この章で、著者のマクスウェルはこう言っている。
「継続的な成長と永続的な成功は、裏表のない生き方の結果である。そのためにも人格を磨き内面を充実させることだ」
「ノーブレス・オブリージュ」という言葉をご存じだろうか。エリートたる人間は、社会に貢献しなければならない、それは義務である、という意味だ。世のため、人のために貢献することで手に入るものとは、金銭的報酬や地位ではなく「名誉」だろう。そして名誉とはわかりやすく換言すれば「皆に尊敬される」「愛される」ということだ。
このことを体現している最たる例が、マハトマ・ガンジーだろう。インド国民のほとんどが彼を尊敬し、愛しているが、それはガンジーが人を愛したからだ。ガンジーが近くに来ると、皆そばに寄ってきて、ひと言でも話をしようとしたり、手を握ろうとしたという。目の前にある難しい仕事をしながら、自分を成長させ、世のため、人のために仕事をしていく──インドでガンジーほど幸せな人はいないと思う。
今日の糧を得るために働くのは事実だが、人間が働く理由は、お金を稼ぐことだけではない。世のため、人のために貢献することで、最終的には、自分が幸せになるためである。

著者プロフィール

佐々木常夫(ささきつねお)

 1944年秋田市生まれ。1969年東京大学経済学部卒業、同年東レ入社。自閉症の長男に続き、年子の次男、年子の長女が誕生。初めて課長に就任したとき、妻が肝臓病に罹患。うつ病も併発し、入退院を繰り返す(現在は完治)。
すべての育児・家事・看病をこなすために、毎日6時に退社する必要に迫られる。そこで、課長職の本質を追究して、「最短時間」で「最大の成果」を生み出すマネジメントを編み出す。2001年、東レで取締役就任。2003年より東レ経営研究所社長。経団連理事、政府の審議会委員、大阪大学客員教授を歴任。「ワーク・ライフ・バランス」のシンボル的存在となる。
著書に『ビッグツリー』『部下を定時に帰す仕事術』『そうか、君は課長になったのか。』『働く君に贈る25の言葉』など、ベストセラー多数。