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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

2.頭がいい人は皆、人間関係づくりもうまい

仕事におけるチームワークの力を磨くためのカギになるのが、「人間関係」です。
仕事とは、人間関係の中でしていくものです。ある人ときちんと関係形成ができていると、何か困ったことがあったときに、
「申し訳ありませんが、この件に関してはよろしくお願いします」
と頼みごとができたり、ミスやトラブルがあったときも、
「そういうこともあるよ」「今回は仕方ない。大変だったね」
で済んだりします。一方、関係ができていないと、ちょっとしたことでも「なんだ、これは!」などと、事が大きくなってしまう。
社内の人脈の差は、仕事の評価に直結するものなのです。

あるいは、違う部署に関わることで部署間のつなぎ役ができる人は、「自分のために動いてくれる、つないでくれる人」と評価されます。すると次回、何かあったときには、その人のために動いてあげよう、という人が増え、仕事が進めやすくなっていきます。このように、お歳暮やお中元のようにやり取りをしながら築いていくのが、大人の人間関係なのです。
一方、そういった人間関係の構築が面倒だからといって誰のリクエストも引き受けないで、自分のためだけに仕事をしていると、「あの人に頼んでも仕方がない」と思われることになります。それは“人脈のなさ”、ひいては“社会力のなさ”につながっていきます。

ピエール・ブルデューというフランスの社会学者は、仕事上で人と人を結びつけられる人、つまり人脈のある人のことを「社会資本がある」という言い方をしています。
「人脈力」こそが、社会資本であるということです。社会資本を身につければ、いい仕事が集まります。すると、お金は自然とついてくるのです。
そういう人は、プライベートでも人間関係が充実していますから、総じて幸福度も高くなるでしょう。
一方、お金だけあって人脈がない人は、どうでしょうか。
たとえば、親から遺産を受けついだとします。するとお金を手に入れることになりますが、もしかしたらその遺産があるばかりに、わがままな人間になってしまうかもしれない。すると周囲に人がいなくなって、社会資本は減っていくことになります。
仕事をしないで、南の島で親の遺産で一日中お酒を飲んでいる、という生き方ももちろんありますが、それでは私たち日本人は幸福感を感じにくい。
それは、仕事によって得られる充実感、人から信頼されているという思いが、私たちに幸福感をもたらす重要な要素だからです。他人が自分をどう見ているかということと無関係に、私たちはなかなか自分を評価しにくいのです。

仏教の開祖「ブッダ」の言葉に、そういう他からの評価を一切気にせずに、こだわらずに、サイの角のようにただ独り歩め、という教えがあります。
しかし実際は、なかなかサイの角のようにずっと行くことは難しい。人間関係こそが仕事の源、幸せの源なのです。
他の人からの評価を“自分の力”に変えていくために、普段から人間関係を温めて、社会資本として持っておくことが大切です。
次回は、他人とサッと打ち解け、仕事における人間関係を確立する方法についてお話しします。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。