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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

5.いいアウトプットは、いいインプットから

仕事をしていく上では、インプットとアウトプットを意識してみると、自分の能力が上がっていくのではないかと思います。
中でも、インプットの質を上げることが、よりよいアウトプットを生み出すためには不可欠です。

今、ほとんどの言語情報、映像情報はインターネットで手に入れることができます。ここ10年くらいで、以前は考えられなかったほどに、世界中の情報や知識にアクセスできる時代が訪れたわけです。これは、奇跡的といってもいいでしょう。
しかし一方で、この10年で、皆の頭がよくなったかというと、必ずしもそうとはいえません。
少し考えてみてください。50代の人より、20代や10代の若い人のほうがスマートフォンやタブレットをよく使っています。だからといって、「若い人のほうが頭がいい」といえるでしょうか。これは統計を取るまでもなく、感覚的に、そうとは言えないと思う方が多いでしょう。
知識の量で比べても、若い人より、ある程度年配の人のほうが、より豊富な知識を持っている。大学で学生と接していると、彼らの知識の少なさに愕然とすることがあるほどです。発展するインターネットに対し、私たち人間は、残念ながら逆の方向に進んでしまっているといえるのです。
専門分野に限らず日常的にインプットの質と量を改善することこそが、自分自身の頭をよくすることにつながります。

私がおすすめしているインプットの一つに、新聞があります。特に、従来の紙の新聞は、頭を鍛える効果が高いと私は思っています。
気になった記事を切り取って、ノートに貼っていく。これは簡単な作業ですが、学生に試してもらうと、2週間くらいで頭の働きが変わってきます。
頭の中に「知識のキーステーション」ができて、それに関連した知識が、テレビやインターネットなどの媒体を通して、また日常の中でも、サッとそこに集まってきます。知識は関連する知識にくっつく形で増えていくので、苦労せず、定着させることができるのです。
たとえばジャーナリストの池上彰さんは非常に博識な方で、キーステーションをいくつも持っています。そのため、いろいろな知識がそこにまた定着し、どんどん広く、深くなっているのです。

知識があるのは、頭がいいことの一つの条件です。知識偏重はよくないという人がいますが、それでも教育の基本は「知識を身につけること」です。不思議ですが、知識を身につけていくプロセスの中で、頭もよくなっていきます。
膨大な知識を持っていても、頭の硬い人はたまにいるかもしれません。でも、多くの人は、ある程度知識があるからいい仕事をしています。
たとえば、「クドカン」こと宮藤官九郎さん。彼は『あまちゃん』『木更津キャッツアイ』など、今もっとも活躍している脚本家です。彼の映画が好きでよく見にいくのですが、どの作品もいろいろな本や映画が下敷きになっている。彼の作品はいろいろな映画やミュージシャンへのオマージュでできているのです。
『あまちゃん』も小ネタがたくさん隠されていました。「これはフレディ・マーキュリーの真似だよね」なんていうのがたくさんあって、全部がパロディになっています。「来てよ、その火を飛び越えて」という歌詞であれば、三島由紀夫の『潮騒』という小説を踏まえています。

知識があって、それを踏まえて、オマージュを捧げたり、パロディのような形でひねって出す。世の中のクリエイティブな活動の多くは、知識と知識の組み合わせ、アレンジでできています。
仕事をしていく上でも同様で、いろいろな知識があるから、アイデアが生まれてきます。アイデアは、無から生まれるわけではないのです。
何がヒントになるのかわかりません。努めていろいろな媒体で情報や知識を手に入れること――情報を「マルチ・インプット」していくことが重要なのです。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。