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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

4.相手との距離をグッと縮めるコツ

相談ごとをうまく使うと、人間関係をより親密にしていくことができます。
たとえば恋愛術に長けた女性は、気に入っている男性に「ちょっと相談ごとが…」と持ちかけます。
それに対して男性が親切に答えていったことで、自然と恋愛関係に発展していく、というのは、よくあるケースです。

以前、私が20~60代の方を1000人くらい集めて講演会をしたとき、あえて知り合い同士ではない二人組をつくって、お互いに相談ごとを持ちかける、という試みをしました。
初対面の相手に対して相談ごとを持ちかけるというのは、一見、無理なことのように思えます。しかし、実際にやってみると、すごく盛り上がりました。
片方が、15秒くらいでいえるような自分の相談ごとをサッと言う。
それに対してもう一方は、どんなことでもいいから、それを解決するようなコメントをする。相談ごとを言ったほうは、そのコメントを「いいね」と受け取る。
たったそれだけのルールで始めた試みでしたが、相談をするだけで驚くほど親しくなれるということを、身をもって実感しました。

なぜ初対面でも相談ごとで親しくなれるのか、それにはいくつかの理由があります。
まず、相談は双方向のコミュニケーションであるということです。
話し上手で色々と面白いネタを持っている人は人間関係を築く上で助けになりますが、どんなに面白い話でも、相手は聞くだけになります。その話が面白ければまだいいのですが、つまらなかった場合、悲惨なことになります。
相談であれば、相談されたほうもリアクションが求められますから、聞き手も参加できるわけです。

また、飲み会などで人の話を聞いていると、「聞くだけ聞いたけれども、結局自慢話だったのか、疲れたな」ということはあります。しかし、相談であれば、自慢があまり含まれず、謙虚さがにじみ出てくる。自分の中にスペースをつくる感じです。
スペースをつくると、他の人も入ってくる余地ができます。参加できます。
先生が、「教えよう、教えよう」と思っていると、子どもは「教えられる、教えられる」と思ってしまい、だんだん閉じていきます。そうではなくて、先生が、「これこうなのだけど、どうしたらこれはいいと思う?」と質問をすると、「先生、こうしたほうがいいよ」と、生徒が積極的になります。
それと同じことが、ビジネスの会話でも起こるわけです。

ですから、相手と親しくなりたいと思ったら、“フィクションとしての相談ごと”というのも、ありなのではないでしょうか。本当に真剣に悩んでいるかいないかはさておいて、相手に相談できるネタを持っておく。すると、人間関係を密にするきっかけを生み出すことができます。
軽めの相談ごとから、人脈――社会資本づくりは始まるのです。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。