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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

3.「雑談力」を人生の武器にしよう

私は2010年に、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)という本を出しました。ここで雑談を力としたのは、友だちでも知り合いでもない、ビジネスの相手と雑談できる力こそ、ビジネスにおける人間関係の構築に必要だと考えたからです。

たとえば、お昼に社員食堂でたまたま一緒になった人と、
「ちょっといいですか」
と雑談を始められれば、「見ず知らずの人」から「1回一緒に食事をした人」に変わります。
私の場合ですと、大学入試期間中には他の学部の先生と顔を合わせることが多くなります。そのときに、知らない相手でもちょっと会釈をして、
「ああ、どうも。いつもお世話になっています」
などと、食事をしながら色々な話をします。
そういうことをしておくと、何かあったときに、その人が「知り合い」として動いてくれ、物事が非常にスムーズに運ぶようになる。仕事上の人間関係は、相手のことを知っているか知らないかだけで、対応が大きく変わるものだからです。

エレベーターで一緒になったら、
「いつもこの時間ですね。僕は○○部の何とかですけど」
と挨拶ができるようにしておく。「ちょっと話したことがある人」になれれば、普段は廊下ですれ違うだけでも、
「ああ、あの人知っているよ」
という関係を築くことができます。このような「ちょっと話したことがある人」を増やしていくのです。
ウエイターやウエイトレスでも、お料理を運ぶだけなのに、なぜかお客さんと人間関係を築ける人がいますよね。そういう人をよく見てみると、何かひと言二言、お客さんと雑談している。その雑談力は、フロア係として、ものすごい差になるわけです。「知り合いがいるから行きやすい」と思ってもらえるのですから。
とりあえず声をかけて、軽く雑談をして、人間関係を「0」から「1」へ変えていく。
人間関係を0の状態から1に変えることができれば、1を2、3と変えていくのは、割と簡単です。

雑談のポイントは、笑顔で、お互いに共感できる話をしていくことです。
テレビでコメンテーターをしていても感じることですが、鋭い、相手が驚くような意見をいうことも大切ですが、ほとんどの場面で求められているのは、お互いに共感し合える意見です。共感を通して、人間関係が築かれていきます。

会社の人間関係であれば、共感する機会はたくさんあります。
たとえば会社内で起きた色々なことに対して、「大変でしたよね」でもいい。
あるいは、軽い相談ごとのような形で、
「こういうお客さんがいて、こうなんですけど、何か対応策がありますかね」
と相談すると、
「そういうこと、前にもあったよ」
ということになる。この場合は、あまりヘビーな相談ごとではなく、軽めの相談ごとのほうがいいでしょう。
瞬時に人に相談を持ちかけられる、瞬時に人の相談にサッと答えられる力。これができることも、「頭がいい」ことの一つです。学校では教えてくれない力です。
かつての厳しい上司は「いちいちそんなこと、聞いてくるな」と言ったかもしれませんが、質問や相談を持ちかけられて邪険にする人は、今はほとんどいません。
誰にも言わずに後々トラブルが起こるくらいだったら、仕事上で判断に迷ったときは、躊躇なく人に聞いてしまったほうがいいわけです。
普段から意識して、軽い質問事項・相談ごとを人に何気なく振る練習をしておくといいでしょう。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。