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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

11.「仕事ができる部下」の共通点

「仕事ができる部下」「頭のいい部下」は、端的にいえば「上司の仕事の手間を、上手に省ける人」です。そして、上司の手間を省ける部下――いい換えれば、上司の仕事の一部を代理できる部下が、結果として出世していきます。
アメリカの鉄鋼王として知られるアンドリュー・カーネギーの自伝を見れば、彼が少年のころから、誰かが休んだ時にその代理をしていたことがわかります。たとえば電話の通信手が休んだとき、カーネギーは進んで代理を買って出たといわれています。
なぜ、人の代理ができると出世していくのか。それは、部下の仕事というのは、基本的に「上司の代理がどれだけできるか」にかかっているからです。
たとえば、仕事でちょっとしたトラブルがあったとしましょう。そのときに、
「こういう状況で、対応策としては、AとBがあります。Aの方がいいと思うのですが、どうでしょうか?」
と提案できれば、
「ちゃんと考えてきたな」
と思われます。「積極性もありながら、コミュニケーション力もある」。そんな評価をされるでしょう。こういう部下は提案することで、上司の「考える手間」を省いていることになるのです。結果的に、仕事もスムーズに進んでいくでしょう。
一方、自分で案も出さずに、
「どうしたらいいでしょうか」
と指示を待ってしまうと、上司にすべてを考えさせることになります。これでは、「仕事ができる部下だ」と思われることはないでしょう。まるで、子どもにものを教えているような感じになってしまいます。

部下の仕事は、上司の手間を省くことなのです。手間を省いているうちに「肩代わり」ができるようになり、そして「片腕」になっていく。
よく、腹心の部下のことを「俺の右腕」などと言いますが、仕事を代理でできるようになって、出世しているわけです。つまり、部下にとっての「頭のよさ」というのは、「代理力」にあるのです。
誰かが休んだときの代理ができるように、周囲に気を配っておく。自分の仕事だけではなく、他の仕事にも気を配っておく。他の人の守備範囲であったとしても、その人の代わりができるように、いつも準備しておく。
それができるようになると、信用が高まりますし、横の連絡がよくなります。するとさらに、仕事がスムーズに進むようになるのです。

今、職場で増えているのは、「言われたことはちゃんとやる。でも、聞いていなかったことはできない」という人たちです。こういう人たちは、何かあったときに、「聞いていませんでしたから」と堂々と開き直ります。部下がこの態度に徹すると、上司は徐々に面倒くさくなり、また仕事も滞りがちになるでしょう。これは、以前にはなかった職場の風景です。
サッカーで考えてみてください。監督が全員分、細かく指示をしているなんてことはありませんね。「指示されていないから動けませんでした」という人は、レギュラーメンバーから外されているはずです。
仕事の現場でも同じです。活躍している人は、自分で積極性を持って確認をとったり、提案をしているでしょう。
「このようにやってみたいと思うんですけど」
「こういう問題に対しては、対処法としては、これとこれがありますが」
と、まずは案を出す。提案するところから、代理力がついていくのです。
頭も、運動神経と同じです。最初は上手に提案ができなかったとしても、回数を重ねれば回転速度が高まり、頭がよくなっていきます。とにかく頭を使うこと。それが、できる部下になるための条件といえそうです。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。