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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

8.読書の質をさらに一段階上げる法

読書の質とは、読み手の共感力次第です。共感できる作品を読むと、時代を超えて、著者のパワーが乗り移ってくる。著者の一人ひとりが、味方として自分の中に住み込んでくる。
勝海舟の本を読めば、勝海舟が味方として住み込み、坂本龍馬を読めば、坂本龍馬が住み込みます。福沢諭吉が住み込み、ニーチェが住み込み、ゲーテが住み込んで、……とすごいラインナップが自分を応援してくれる。自分の応援団が一人ひとり増えていくことになります。
自分の中にはたくさんの応援団を持つのがいい。いろいろな強い著者が生い茂るほうが、たくさんの種類の植物が生い茂る森のように豊かでいいと思います。

自分の中に豊かな森をつくるために、「著者」を中心にした読書をおすすめします。著者を中心に、師の話、先生の話を聞くようなつもりで本を読んでいくのです。
たとえば、福沢諭吉の『福翁自伝』は有名ですが、読んだ人はそれほど多くはないと思います。『福翁自伝』は日本人の自伝の中でもっとも面白いし、中身が濃い。そして、福沢諭吉という人間の明るさが出ていて、楽しい書物です。そもそも口述だから、読みやすい。この本を読む時間は、人生にとって非常に貴重なひとときとなるでしょう。
私も現代語訳したことがありますが、ちょっと古い言葉に慣れている人なら、原文ですらすら読めると思います。何回か読んでいくうちに、「こんな貴重な話を、本の値段だけで聞けるなんて!」という感動があるはずです。
今、現代に福沢諭吉が生きていて、面と向かって話を聞けるとなったら、おそらく10万円、20万円出しても足りないでしょう。それが本であるならば、おそらく何日間もかけて語った内容を、いつでもどこでも、落ち着いて読めるわけです。
その人が目の前で語ってくれているのだと考えれば、本ほど安いものはない。若い頃から私が本に関しては、金に糸目をつけないと考えてきたのは、このためです。
経済的な問題がある場合には、古本屋さんでも、今は大変安くいろいろな名著が手に入ります。とにかく自分にとっての「マイ古典」と呼べる本を増やしていくことです。
それが積もり積もって、自分の味方となっていくのです。

ただし、「著者」を中心にするからといって、その対象をたった一人だけ、その人のいうことだけ信奉してしまうとなると、ちょっと視野が狭くなります。たった一人の考え方に心酔したような、危険な状態――かつての「マルクス主義者」のような状態――になってしまうのです。
最初は、自分が尊敬できる偉大な著者を3人決めるつもりで、「著者読書」をしてみてください。そうすると、自分の考えに「背骨」ができるだけでなく、バランスもよくなるのではないかと思います。
判断するときにも、判断力の深みが出てきます。自分の中に偉大な他者がどれだけ住んでいるか。それが実は、頭のよさなのです。
吉田松陰であれば、自分の中に孟子など、いろいろな偉大な人をつねに持っていました。ニーチェもゲーテを意識しています。偉大な人ほど、自分の中に偉大な他者を持っています。自分一人で戦っているわけではないのです。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。