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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

9.頭をよくする“究極の方法”

ここで、インプットの質を手っ取り早く上げる方法をご紹介しましょう。それは、アウトプットをすることです。アウトプットをすることは、実はインプットの質も高めていくことにつながります。

なぜアウトプットをすることでインプットの質が上がるのか、その仕組みは簡単です。
「外に出そう」と思っていると、吸収するときに真面目に吸収するようになります。たとえば伝言ゲームをすれば、「次の人に伝えなければ」と思いますから、真面目に話を聞くでしょう。それと同じ状況を、自分でつくり出すのです。本を読んでもすぐに忘れてしまう人は、本を読んでいる最中に、他の人に話すといいと思います。話すつもりで読む。そして友だちや知り合いなど誰でもいいのでとにかくしゃべる。すると自然と定着します。
私も中学生のときから、この方法が習慣になっていました。本を読んだら、友だちに向かってとにかく話す。映画を見たら話す。
さらに、本や映画だけでなく、勉強のときもこの方法を取り入れていました。高校受験、大学受験、大学院受験すべてを一緒に乗り切った友人がいるのですが、その勉強法は、一人がとにかくしゃべって、もう一人がチェックする。そしてそれを交代で行なう方法でした。
しゃべるというのは、ものすごく効率がいいのです。書くのはもちろん威力がありますが、少し時間がかかってしまいます。しゃべってしまったほうが早い。二度くらい引用したり、それを用いて話すと、だいたい定着します。

しゃべる相手がいなければ、ブログなどでもいいでしょう。
ブログで好きな本を紹介するならば、本を読むときに「書くときに、ここの引用をしよう」とチェックするようになります。私は「3色ボールペン」で線を引きながら読書することをおすすめしていますが、「赤がすごく大事、青がまあ大事、緑が面白い」などと3色で切り分けると、頭がはっきりしてきます。読んだ後に引用できる箇所が見つかっていると、読んだ甲斐もあるというものでしょう。
ちょっとした短い文章を書く中に、いろいろな情報を引用して入れる。自分の考えを書くだけだと、変化のない、浅いものになりがちです。本を読んでは、そこに言葉を入れる。雑誌を読んでは、そこに言葉を入れる。他の人が読んだときに、その本を読んでみようとなるかもしれませんから、出典は明らかにしておく。

ブログやツイッターによって誰でも気軽に発信できるようになったことで、アウトプットはしやすくなっています。書くというよりはしゃべるに近い感覚で、誰もが、身の回りの人だけではない人にも発信できるようになった。言ってみれば、「自分の部屋のドアを開けたら、いきなり大通りになった」というわけです。その感覚を間違えてしまうと、一気に袋だたきに遭います。友だちだけにささやいたつもりが、事件になってしまうのです。
これは、便利になった反面、ちょっとぞっとするような気もしますね。
このように、誰でもが気軽に発信も受信もできる環境ですから、アウトプットに関しては、ネガティブな批評は避けておくことが無難かと思います。
頭がいい人は、敵をつくりません。『バカの壁』など数々のベストセラーを生み出している、解剖学者の養老孟司先生がおっしゃっていたそうですが、天下無敵というのは出てきた敵をばったばったとなぎ倒していくことではなく、天下に敵がいない、ということなのだそうです。
なぎ倒していくのと、天下に敵がいないという状態は、かなりイメージが違います。前者は荒々しいイメージですが、後者は結構穏やかな人格を想起させます。
自分がアウトプットをしていくときに気をつけなければいけないのは、後者の「敵をつくらないように」することでしょう。何か自分の気に入らないことがあっても、それが好きな人もいるわけです。ネガティブな批評ばかりでは、天下有敵になってきて、どんどんアウトプットしにくくなります。

映画評論家の淀川長治さんが、『私はまだかつて嫌いな人に逢ったことがない』というタイトルの本を出したことがあると思います。それは、どんな映画でもほめるところはあるということで、この発想を人に応用していくのです。全体はともかくとしても、「ここは面白い」など、そのように発信していけば、アウトプットで無用の衝突を招くことはありません。
もちろん人生には、戦い抜いて勝ち取らなければいけない場面もありますが、いつもそうしていると、よほどの才能がないと疲れてしまいます。別に敵をつくらなくても、思いを遂げることはできます。
むしろ、仕事をしていく上での頭のよさというのは、「敵をつくらない」というところにもあるといえそうです。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。