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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

10.これからの時代を生き抜くための「頭のよさ」とは?

かつては、一流の仕事をしている人には「職人気質」で「頑固」、「怖そう」だけど「仕事はすごい」という人が多くいました。しかし最近は、「一流の仕事をしていて、人当たりがいい人が増えている」ように感じます。CMプランナーやデザイナーなど、最先端の現場で仕事をしている人を見ると、皆人当たりがいいようです。
私の著書の装丁をしてくれるデザイナーさんでも、職人気質の仕事をしてくれるにもかかわらず、コミュニケーション力が非常に軽やかです。
そういう柔らかい人当たりのいいコミュニケーションができて、しかも職人仕事ができる、そんな人が求められる時代に入ってきたのだと思います。

先日、深夜のテレビでその「軽やかさ」の典型のようなものを見ました。
女性アイドルグループの「ももいろクローバーZ」のプロデュースをしているヒャダインさんと漫画家の久保ミツロウさん、エッセイストの能町みね子さんが出ている番組です。
その番組では、久保ミツロウさんと能町みね子さんが新しい歌の歌詞を適当につくるわけです。その場でヒャダインさんが、その歌詞に曲をつけてしまうのです。
その曲に対して、久保ミツロウさんが「あんた天才だよ」とヒャダインさんに言っていました。
これを見て、私は感心しました。そのやり取りが柔らかい。人当たりがよく、すごく軽やかに話が進んでいて、職人的な仕事をしています。このような仕事のスタイルが、今求められている、「軽やかさ」ということでしょう。さっさと、にこやかに、しかも、ある種職人的とも才能ともいえる、何か一芸を持っている。そんな仕事の仕方が求められているのです。
このような仕事ができれば、何をしていても「あの人は頭がいいな」「あの人は仕事ができるな」という感じになってきます。

なぜ今、仕事における頭のよさにおいて「軽やかさ」が求められているのか、その背景には、一つのことにこだわりすぎていると遅れてしまうような、時代の流れの速さがあるように感じます。
時代が、あっという間に変化していく。だからこそ、
「絶対にこれではないと、自分は納得できないんですよね」
と言っている人がいると、「面倒臭いから外そうか」となってしまいがちです。一つひとつ柔軟に対応していかないと、流れていかない。

原理原則にとらわれるのではなく、柔軟に対応できると、物事がスムーズに流れます。
残念ですが人間は、年を取るに従って、頭が硬くなる傾向があります。ですから、年を取ってから柔軟に対応しようとしても、なかなかできることではありません。
若いうちから柔軟に対応していくことで、大人の頭のよさを培っていくことが大切なのです。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。