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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

7.「人間的深み」は、ここから生まれる

自分の知的好奇心の程度をはかる指標として、大きな書店に行くことをおすすめします。
私はよく書店に行くほうですが、行くたびに、「こんなにいろいろな本が出ているんだな」という発見があります。3カ月ぶりくらいに本屋にきたなという人は、3カ月部活をさぼっていた人のようなものです。部活を3カ月さぼると、試合になかなか出られない。そういう状況が起こるわけです。
私の場合は、中学や高校時代に本格的に本を読み始めてから、もう40年くらい経っています。それも、毎日1冊くらいのペースですから、これまでに読んだ本の冊数は相当なものになってきます。
「毎日1冊」というペースに驚かれた方もいるかもしれませんね。でも、はじめから速く読めたわけではありません。中学生の頃は、『氷川清話』という勝海舟の談話集を1年間持っていたくらいです。これはスローリーディングといいますが、同じ本を、ゆっくり毎日、1年以上読んでいると、暗記してしまいます。これもまたインプットとして、とてもいい方法です。

本は、インプットの質を上げることにもなるし、知的好奇心を持ち続けることにもなります。本の威力は独特で、単なる「情報」とは違うところがあり、本こそ頭がよくなるための王道だと思っています。これまでいくつも、「この方法で自分の頭がよくなった」と実感できた機会がありましたが、その一つ大きな柱は「本」です。本こそが自分の頭のよさの骨格、背骨をつくってくれていると思っています。
本は、知識をまとめて体系立てて身につけるのに非常に便利なものですが、本を読むことは情報を得るというよりは、著者のものの考え方を学ぶことであると思います。言い換えれば、ある人(著者)から話を聞くために、私は本を読んでいるわけです。
今の世の中は、情報があふれています。そんな中では、かえって「人」そのものが大事になってくる。講演会などがあれば、行ったほうがいいでしょう。
ある人が講演会で話すと、言葉とともにその人のパワーを感じられることがあります。そのパワーが、自分へのメッセージの入り方を濃くするのです。

しかし、本当に偉大な人物というのは限られており、今生きている人とは限りません。
たとえば古代ギリシャの哲学者プラトン。彼は、『ソクラテスの弁明』『饗宴』などで、ソクラテスの思い出話をしました。それがプラトンの著作の出発点です。
ソクラテスはもちろん偉大な人物ですが、そのソクラテスについて語るプラトンもまた、偉大な人物なわけです。偉大な人物の2乗をそこで読む。これは本だからこそ、なし得ることです。
2500年の時を隔てていて、現代日本とずれているところもありますが、
「おお!」
「ここはわかる、わかる!」
という共感もあるでしょう。プラトンと本を通して対話できる。これは、感動に値する、素晴らしいことだと思います。
もちろん、日本語訳されたものではなく、ギリシャ語で読めればそれに越したことはありませんが、現実問題として、そこまで語学にエネルギーをかけることはできないでしょう。今は優れた研究者が、読みやすい日本語に訳してくれています。おおよその意味がわかれば、それで十分だと思います。

本で偉大な人物の考え方を知り、共感すれば、著者の一人ひとりが、味方として自分の中に住み込んでくるような感覚を味わうことができます。味方を増やすことで、あなた自身もまた、深みを増していくことができるのです。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。