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その他大勢から抜け出す「知的生産」の技術

12.誰でも、「仕事ができる人」になれる

頭を使うこと。「仕事ができる人」になるためには、それが非常に重要なことです。
頭を使い続けると何がいいかというと、頭を常に使っている状態に慣れてきます。使っていない人を見たときに、「静止状態」のように見えてくる。
スピードスケートの清水宏保選手と対談をしたことがありますが、彼は滑っているときにも、ものすごくいろいろなものが見ているそうです。そして、スピードスケートの練習をした後に車に乗ると、周りが止まって見えると言っていました。本当は高速で走っているにもかかわらず、すごくゆっくりと感じられるそうです。
脳の回転でも、同じことが起こります。脳の回転速度が高くなると、周りが止まって見える。周りの仕事ぶりがスローモーションに見える。
すると、同じ一瞬でも考える量が多くなります。つまり、同じだけの時間でも、
「これって、もっとこうしたほうがいいんじゃないの?」
という気づきが、増えるということです。

気づきの多い人は、見ているとすぐにわかります。
たとえば、大学は入試のシーズンになると長い行列ができることがあります。目の前の広い通りで、2列の長い行列ができている。あまりに長くて、そろそろ大学の敷地から出てしまいそうな様子を見たとき、気づきの多い人は、3列でもスペースがあるのではないかと考えて、3列にする。そうすると列がグッと縮まります。
ただ漫然と言われた通りにやっているのでは、「列が長くなりすぎている」という問題点を見出すことができません。知らず知らずのうちに、事態は悪化していきます。
臨機応変に物事を考えて、的確にアレンジしていく。頭を使うことによって、その能力が培われていくのです。
もう少しこう工夫したら、ムダが省けて効率がよくなるのではないか。
わざわざ集まらなくてもいいのではないかというときは、メールのCCで「これで行きますけど、よろしいでしょうか」と回せば、いちいち会議で集まらなくてもよくなります。
会議で一度集まったら、全部そこで決めてしまう。私の場合は、会議の数は、自分が管理する場合は少なくなります。
頭の回転が速くなれば、人の時間をムダに奪うこともなくなります。

何に対しても問題意識を持たず、ぼーっと見ているだけの人、当事者意識のない人は、どんなに頑張っていても、頭がいいとはいえません。目の前の出来事を自分の問題として、当事者意識を持つことが、頭を使い続けるコツです。
以前、セブン-イレブンの鈴木敏文会長と対談をしたときに、鈴木会長は「自分はつねに実験をしている」とおっしゃっていました。仮説・実験・検証をくり返していくと言われたのが印象的でした。
仮説・実験・検証をくり返していくと、小さなことでも「これをやったらうまくいくかも」とちょっと試すことにつながります。
工夫することで、いいやり方が身につきます。失敗してもすぐ修正がきくようになるでしょう。そのために、つねに軽い実験を一つ二つやり続けるのです。
本当の「頭のよさ」は、そういうところから生まれてきます。

さて、本コラムでは、「その他大勢から抜け出す知的生産の技術」というテーマで、全12回に渡ってお話ししてきました。何か一つでも、考え、頭を使うきっかけとなれば、幸いです。
1年間、ありがとうございました。

著者プロフィール

齋藤 孝(さいとう・たかし)

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書には、『“ちょっと尊敬”される人になる本』(三笠書房)、『眼力』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、訳書には、『夢を実現する戦略ノート』『求心力──人を動かす10の鉄則』(ジョン・C・マクスウェル著、三笠書房)など多数がある。